「パキスタンでは、いとこ同士で結婚する人が非常に多いらしい」「その結果、障害を持って生まれる子どもが多いのでは?」
こうした話題はSNSや掲示板でも頻繁に見かけますが、断片的な情報だけが一人歩きし、誤解や感情論が混ざりやすいテーマでもあります。
本記事では、特定の国や人々を貶める目的ではなく、研究・統計・社会背景をもとに、
- 本当にパキスタンでは障害率が高いのか
- なぜいとこ婚が多いのか
- 遺伝的リスクはどの程度なのか
- 「知らないからやっている」のか
を冷静に整理します。
前提整理:「近親相姦」と「いとこ婚」は別物
日本語では混同されがちですが、まず用語の整理が重要です。
- 近親相姦:親子・兄弟姉妹など、ほとんどの社会で強いタブー・犯罪
- いとこ婚(親族婚):いとこ同士など、法律・宗教上で認められている婚姻形態
パキスタンで多いのは後者の「いとこ婚を含む親族婚(consanguineous marriage)」です。
これはイスラム法(シャリーア)でも禁止されておらず、長年にわたり社会に根付いてきました。
パキスタンでは、いとこ婚が多いのは事実
複数の人口学・社会学研究によると、パキスタンでは婚姻全体の約60〜70%が何らかの親族婚とされる地域があります。
これは世界的に見ても高い水準であり、なぜこの慣習が続いているのかを理解するには、遺伝学ではなく社会構造を見る必要があります。
なぜパキスタンでは、いとこ婚が選ばれるのか
① 家族・一族を単位とする社会構造
パキスタン社会では、個人よりも家族・一族(クラン)が生活の基本単位です。
- 仕事の紹介
- 金銭的支援
- トラブル時の保護
- 社会的信用
これらは国家や社会保障ではなく、血縁ネットワークによって支えられている側面が大きいのです。
いとこ婚は「信頼できる相手と確実につながる」ための非常に合理的な選択と見なされています。
② 女性の安全と家庭内トラブル回避
外部の家に娘を嫁がせることは、家庭内暴力や不当な扱いのリスクを伴います。
一方、親族内婚であれば、
- 何かあれば実家が介入しやすい
- 相手の家族関係・性格を把握している
という安心感があります。
③ 結婚コストが低い
結婚には交渉・持参金・儀式など多くのコストがかかりますが、親族内であれば大幅に簡略化できます。
特に貧困層では、この要素は無視できません。
では遺伝的リスクは?科学的にはどうなのか
ここからが多くの人が最も気にする点です。
遺伝学の基本:なぜ近い血縁だとリスクが上がるのか
人間は誰でも、表に出ていない劣性遺伝子(潜在的な有害変異)を複数持っています。
血縁関係が遠い相手同士であれば、同じ変異を両方から受け継ぐ確率は低いですが、
共通の祖先を持つ親族同士では、その確率が上がります。
その結果、常染色体劣性疾患や一部の先天異常が統計的に現れやすくなることが分かっています。
研究データが示す現実
英国の大規模出生調査「Born in Bradford」では、親族婚がある場合、
- 先天異常のリスクが非親族婚より高い
- 特にパキスタン系集団でその影響が顕著
という結果が示されました。
重要なのは、これは「必ず障害が出る」という意味ではなく、
「集団として確率が上がる」という話だという点です。
「パキスタンは障害率が高い」と言い切れない理由
障害率は以下の要因でも大きく変わります。
- 医療アクセス
- 出生時診断の有無
- 栄養状態
- 感染症
- 統計の取り方
そのため、「国別障害率ランキング」のような単純比較は科学的に危険です。
知らないから続いているのか?
答えは「一部は知らないが、知っていても選ばれている」です。
教育水準や都市化が進むにつれて、
- 親族婚を避ける若者
- 遺伝カウンセリングを受ける家庭
は増えています。
しかし同時に、生存・安全・経済という現実的問題が、将来の遺伝リスクより重視される場面も多いのです。
まとめ
- パキスタンでは、いとこ婚を含む親族婚が多いのは事実
- 親族婚が多い集団では、先天異常リスクが統計的に上がる
- ただし「必ず障害が生まれる」「国全体の障害率が高い」と断定するのは誤り
- 背景には文化ではなく、社会構造と生存戦略がある





