競輪のレースを初めて見ると、多くの人がこう思います。
「最初の3周くらいゆっくり走ってない?」「最初から全力で走った方が強いのでは?」
実はこの“ゆっくりスタート”こそが、競輪において極めて重要な意味を持ちます。本記事では、序盤がスローになる理由、そして競輪の特徴的な存在である
誘導員(ペーサー)の役割について詳しく解説します。
■ 競輪は「最初から飛ばすと負ける」スポーツ
競輪は短距離競技ですが、実は「ラスト1周の爆発力」にすべてを賭ける競技です。
スピードが上がるほど空気抵抗が急増するため、先頭選手は後ろの選手と比べて約3倍以上のエネルギーを消耗します。
つまり、序盤から全力で飛ばしてしまうと、後ろの選手に風よけとして利用され、自分だけが脚を消耗してしまうのです。
そのため競輪の基本戦略は、
「序盤は脚をためる → 終盤で一気に踏む」
という構造になっています。
■ 誘導員とは?競輪独自の重要な存在
競輪ではレース序盤に必ず 誘導員(ペーサー) が先頭を走ります。
選手はこの誘導員の後ろに並んでレースを進行し、しばらくは低速のまま周回します。
● 誘導員の主な役割
- ① レース序盤の危険な加速を防ぐ
スタート直後に全員が一斉に位置取り争いをすると、落車の危険が非常に高まります。
誘導員が一定ペースで引くことで、レースが安定して進行します。 - ② ライン(隊列)を形成しやすくする
競輪には「ライン戦」と呼ばれる集団戦の戦術があり、地域や脚質ごとに隊列を組みます。
誘導員がいることで、自然にラインが整っていきます。 - ③ 駆け引きの準備時間を作る
選手は序盤の数周で、誰が先行するのか、どのタイミングで仕掛けるのかを探ります。
この「静かな時間」が、ラスト1周の爆発力につながります。
誘導員は一定の速度(目安:時速25〜35km)で走り続け、残り約1周半になるとコースアウトして退避します。
誘導員が外れた瞬間こそ、本当のレースが始まる合図です。
■ 誘導員が外れた後、レースは一気に加速する
残り1周半になると「打鐘(ジャン)」が鳴り、誘導員が退避。
ここから選手たちは自由にスピードを上げられるようになります。
速度は一気に 時速50〜60km 台に到達し、
それまでの静けさが嘘のような激しいスプリントが展開されます。
このため、競輪はしばしば
「静と動のメリハリが最も激しい自転車競技」
と言われます。
■ もし誘導員がもっと速く走ったら?
「序盤も速く走ればいいのでは?」と思う人もいますが、誘導員が速すぎると競輪が成立しなくなります。
- 先頭が極端に不利になる
- 番手・三番手が有利すぎる
- ライン戦が崩壊する
- 落車リスクが増える
- 脚質差が活かせなくなる
つまり、誘導員の「遅めのペース」は競争を成立させ、戦術の幅を保つために必要な仕組みなのです。
■ まとめ:競輪の序盤がゆっくりなのは合理的な戦術とルールの結果
- 競輪の序盤が遅いのは、脚を温存するため
- 誘導員は序盤の安全性とライン形成に欠かせない存在
- 誘導員が外れると本当の勝負が始まる
- 競輪はラスト1周が最大の見せ場
序盤の静けさと、終盤の爆発的な加速。
このギャップこそが競輪の魅力であり、戦術性の深さにつながっています。